- 2016/02/04(木)
- 酪農家を目指す方々へ ― 萩原牧場 代表 萩原 拓也さん ―
牛とのホットな関係、大自然に囲まれた生活が楽しい
酪農家 萩原 拓也さん
60ヘクタールもの広大な敷地の中でノビノビと過ごす牛たち。敷地内には川が流れ、空にはオジロワシが颯爽と飛び回り、夜になると満点の星空が広がる。
憧れだったロケーションを手に入れ、牛たちと暮らす日々を楽しむ酪農家、萩原拓也さん。
酪農で独立というとハードルが高そうなイメージがありますが、どのように実現されたのかを伺いました。
【写真:萩原牧場 代表 萩原 拓也さん】
【萩原 拓也さんプロフィール】
高校卒業後、酪農を学ぶため北海道の酪農学園大学へ進学。
大学時代に近隣の牧場で酪農アルバイトを経験。
大学卒業後、自己資金と経験を積むために酪農ヘルパーを3年間経験。
その後、後継者を探している牧場で農場長として勤務。(現在の牧場)
その後、牧場を買い取りオーナーへ。北海道西興部村で萩原牧場開場。
現在に至る。
萩原さんは現在、北海道の西興部村で放牧型の酪農経営をされています。
所有する敷地面積は60ヘクタール。約40頭の牛を飼養されています。
敷地内には、サケやマスが上がってくる清らかな川が流れ、釣りはもちろん、キノコ狩りや山菜取りも楽しめ、夜にはなると空いっぱい落ちてきそうなほど星が見える大自然いっぱいの牧場です。
放牧と言っても、単に牛を草地に放し飼う「粗放牧」ではなく、放牧地をいくつかのエリアに区分けして柵を作り、草丈が低く栄養価の高い、また消化率の良い短草を利用する「集約放牧」をおこなっています。牛を計画的に移動させ、常に良い牧草をたくさん食べられる環境を維持し、良質な牛乳を届けられるように工夫されています。
また、乳牛として一般的なホルスタイン種だけではなく、ジャージー牛や日本に1000頭ほどしかいないと言われるブラウンスイス種、そして、黒毛和牛など様々な牛を飼養し、その掛けあわせの牛を育てたりされています。
【写真:夏の放牧風景】
■新規就農をされるまで、どのようなご経歴を歩んでこられたのですか?
出身は神奈川県横浜市。
酪農に縁もゆかりもない場所で高校時代まで過ごしました。今思えば、人がたくさんいる環境にいたことが不思議ですし、自分には合わなかったなと思います。
高校の時、長野県にある馬の牧場でアルバイトをしたんですが、それがきっかけで自然の中で動物と働ける牧場っていいなって思うようになったんです。それからいろいろと調べていくうちに「牛の方が面白そう」、「北海道で牛を放牧してみたい」と思うようになり、北海道の酪農を学ぶ大学へ進学しました。大学在学中に大学近くの牧場で酪農のアルバイトをして、気持ちが固まりました。あとは、自己資金を貯めるためと、技術を身に付けるために酪農ヘルパーを経験して、その間に自分が理想とする条件の牧場が空くのを待ったんです。
■なぜ放牧による酪農をしたかったのですか?
初めはイメージからです。酪農と言えば北海道で、牛が牧草に寝そべっているようなイメージがあって。そういう牧場に憧れがあったんです。その後、大学で勉強したり、酪農ヘルパーでいろいろな牧場を見たりしているうちに、酪農にはいろいろなスタイルや考え方があるんだなとわかりました。牛舎で飼養して搾乳するスタイルでももちろん十分生活出来ますし、借入金の返済も早期に実現できると思います。
しかし、自分は大自然の中でゆったりと牛を育てて質の良い牛乳を作りたかったので放牧による酪農が魅力的に感じました。頭数を増やして乳量を追求していく酪農のスタイルより、乳量は少なくても、質の良い牛乳をつくりたいと思ったんです。
そして何より、60ヘクタールという広大な敷地や、川が流れるこの環境に身を置き、この環境を生かした酪農をやりたかったんです。
【写真:牛舎にて(冬の間は牛舎で飼養)】
■これまで苦労されたことはありましたか?
苦労はたくさんありましたよ!
土地もなければ金もない、牛を育てた事も無い状態からのスタートですから(笑)。
「やってみたい」という思いだけで今日まできた感じです。
大学卒業後、酪農ヘルパーの仕事で多くの酪農家のサポートをしていくうちに知識と経験を積んで準備ができてきました。
そして、離農する牧場を買い取り念願の新規就農を実現しました。
買い取るにあたっては借金もしています。新規就農するにあたっては借金は比較的しやすく、手厚いサポートも受けられるのですが、途中ではもちろん辞められません。
今でも苦労はあります。牛に良い草を食べさせ続けるにはどうしたらいいか、日々考えています。自分の場合は、良い草を育てるのに7年かかりました。今は牛が満足してお腹いっぱいエサを食べているのがわかります。牧草は勝手に生えてくるわけではなく、毎年ちゃんと種を蒔きます。そして必要に応じて肥料もあげます。森を伐採して草地に変えたり、良質な牧草を育てるのも常に工夫と努力が必要になるのです。
■苦労が多いとのことですが、新規就農を実現されて良かったですか?
もちろんです!苦労といっても嫌な苦労ではありませんから。
牛たちとのホットな関係も日々楽しんでいますし、ハンモックで寝たり、敷地内の川で釣りをしてから搾乳をするなど、充実した暮らしを過ごせています。仲間たちと飲みに行くのも楽しいですし、普通のサラリーマンと違って自分のやりたいようにできる今の生活は自分に合っていると思っています。
【写真:ブラウンスイスの子牛】
■今後やりたいことはありますか?
当牧場で飼養しているブラウンスイス種は、日本で1000頭程しかいない希少種ですが、暑さにも比較的強く、足腰も強いので放牧向きとされています。また、他の牛に比べタンパクの値も高いことからチーズの加工に向いています。今は、チーズ工房に卸していますが、チーズづくりにも挑戦して村の特産品にしていければと考えています。
また、自分のように新規就農される方を応援しようと思っています。この辺りは高齢で離農される方が増えていますので、やる気のある方にはチャンスだと思います。
あとは…
牧場経営もなんとか軌道に乗せることが出来てきましたから、今後は自分の時間をもっと豊かに楽しんでいきたいと思っています。
ツリーハウスやバーカウンターのあるゲストハウスなど、時間をかけて手作りで作っていこうと計画中です(笑)
■最後に、酪農で独立を目指される方にメッセージをお願いします
酪農の仕事は365日牛の世話をしなければなりません。お休みが取りにくいのは事実ですが、自分のやりたいようにできる魅力もあります。
今は離農する牧場も増えているので、オーナーになるチャンスはいくらでもあると思います。牧場を探すときは、自治体や農協の支援なども必要ですが、後から変えられない条件を優先に探した方がいいと思います。僕の場合は、この広大な敷地と良い水が湧き出る自然豊かな環境に惹かれました。
年々酪農家戸数が減り牛乳も足りなくなっています。覚悟は必要ですが、強い気持ちさえあればできると思います。同じようなスタイルを望まれる方は、支援もできますよ。
【写真:大自然とブラウンスイス】
【取材を終えて】
「うちの牛たちは「モーモー」言ってないでしょ、これって満足している証拠なんだ」
確かに、萩原さんが仰るとおり、牛たちは牛舎の中で満足した表情で寝そべっています。そして、良い草から作られたエサをたくさん食べた牛たちのお腹はふっくらと膨らんでいました。
萩原さんが追い求めてきた理想の牧場は、牛たちにとっても理想の環境になっているんだなと感じました。
10人いたら、10通りのやり方、考え方がある酪農経営。そして、自分のやりたいようにできるのが独立の魅力です。
苦労はたくさんあると言いながら、どこか楽しそうな萩原さんの表情がとても印象的でした。
そんな萩原さんの牧場では、現在、一緒に働いてもらえる従業員、そしてチーズ加工に携わっていただける方を探しています。ご興味のある方は、【株式会社あぐりーん 043-244-7631 】までご連絡ください。